「ホワイトニング市場は伸びているのか」という問いには、どの範囲を市場と呼ぶかで答えが変わります。歯科医院のホワイトニングを含む審美歯科の市場は、調査会社の推計で前年を上回る水準が続いていますが、セルフホワイトニングサロンだけの市場規模や店舗数を示す公的な統計は見当たりません。この記事では、開業・経営を考える事業者に向けて、確認できる数字と、数字がない部分の構造を分けて整理します。
「ホワイトニング市場」は一つではない
ホワイトニングと呼ばれるサービスや商品は、法律上の扱いも提供者も異なる複数の領域に分かれています。市場の数字を見るときは、まずどの領域の話なのかを確かめる必要があります。
| 領域 | 主な提供者 | 内容 | 法律上の位置づけ |
|---|---|---|---|
| 歯科医院のホワイトニング | 歯科医師・歯科衛生士 | オフィスホワイトニング、ホームホワイトニング | 歯科医療(自由診療)。過酸化物を含む材料は医療機器 |
| オンライン診療と組み合わせた在宅の医療ホワイトニング | 歯科医師(診療・処方)と利用者本人 | 診療後に処方されたジェルを自宅で使う | 歯科医療。使用の可否は歯科医師が判断 |
| セルフホワイトニングサロン | サロン(利用者が自分で施術) | 専用ジェルとLED照射による歯の表面の着色汚れのケア | 医療ではない美容サービス |
| ホームケア用品 | メーカー・小売 | ホワイトニングをうたう歯みがき、ケア用品など | 医薬部外品・化粧品など(表示できる効能が決まっている) |
ネット上には「ホワイトニング市場は数百億円」「数兆円」といった桁の違う数字が出回っていますが、多くは対象の範囲や出典がはっきりしません。範囲の異なる数字を比べたり足し合わせたりすると、実態を見誤ります。
確認できる数字:歯科の審美市場
株式会社矢野経済研究所が2026年1月に公表した調査では、2024年の審美歯科市場(歯科医院の自由診療収益ベースの見込み値)は1,697億円で、前年比103.0%とされています。この「審美歯科」には、歯科医師・歯科衛生士が行うホワイトニングとクリーニング、見た目を整える補綴(クラウンやラミネートベニアなど)が含まれ、エステティックサロンなどで行うセルフホワイトニングは含まれていません。
同調査は、マスクを外す機会の増加やオンライン会議・SNSの広がりで口元の見た目への関心が高まり、歯科医院のオフィスホワイトニング、ホームホワイトニングの両方で利用が増えていると説明しています。つまり、確認できる範囲で「伸びている」と言えるのは、主に歯科医療としてのホワイトニングを含む領域です。
数字がない部分:セルフホワイトニングサロン
セルフホワイトニングサロンについては、業界団体や行政による市場規模・店舗数・開廃業数の統計は、この記事の確認時点で見つかりませんでした。「全国に何千店」「何割が閉店」といった数字は、根拠となる調査が示されていないものが多く、事業計画の前提には使えません。
数字の代わりに、サロンの需要を左右する構造として、次の点を押さえておくと判断がぶれにくくなります。
- 関心は高い:歯の色への関心そのものは高く、たとえばHaleonジャパンが2026年6月に公表した調査では、20〜40代の約6割が歯の黄ばみ・着色に悩んでいると回答しています。
- 提供できる価値には範囲がある:サロンで扱えるのは歯の表面の着色汚れのケアで、歯そのものの色を変える漂白は歯科医療の領域です。「白くしたい」という関心がそのままサロンの需要になるわけではありません。
- 代わりの選択肢が増えている:歯科医院のホワイトニングに加え、オンライン診療を組み合わせた在宅の医療ホワイトニングや、ホームケア用品も選べるようになっています。
- 参入しやすい:資格がなくても開業でき、機器も比較的小さいため、同じ商圏に似たサービスが増えやすい構造です。
需要の変化を左右する要因
医療ホワイトニングへのアクセスの広がり
厚生労働省は2025年4月、歯科医師が診察して過酸化水素を含むホワイトニング材の使用が適当と判断した患者に交付し、患者が自分の歯に使う形について、一般論として歯科医師法に違反しないと考えられるとの回答を公表しました。同時に、その材料は医療機器であり、添付文書に従って適切に使うよう注意も示しています。医療としてのホワイトニングを、通院の負担を抑えて受けられる形が広がれば、「手軽さ」を理由にサロンを選んでいた人の一部が医療側に移ることも考えられます。
満足度と期待のずれ
前述のHaleonジャパンの調査(直近1年以内のホワイトニング経験者300人)では、施術の満足度は医療ホワイトニングで83%、セルフホワイトニングで53%でした。一社のインターネット調査であり、店舗の運営や説明の仕方によって満足度は変わりますが、「何ができて何ができないか」を来店前に正しく伝えないと、期待とのずれが継続率に響くことを示す材料です。
契約トラブルへの社会的な目
国民生活センターは2024年7月、セルフホワイトニングを含む「セルフエステ」の契約トラブルについて注意を呼びかけました。無料体験の後に継続契約を強く勧められた、解約に違約金がかかると後から知った、といった相談が挙げられ、セルフホワイトニングに関する相談が増えているとしています。福岡県消費生活センターも2023年に同様の注意報を出しています。業界全体の印象に関わるため、一店舗の問題では済まない面があります。
売上が伸び悩む店舗に共通しやすい構造
個別の店舗の数字は公表されていませんが、サロン経営で売上が伸びにくくなる要因は、おおむね次のように整理できます。
| 要因 | 起きやすいこと | 見直す点 |
|---|---|---|
| 新規集客の費用 | 予約サイトや広告への依存度が高く、1人あたりの獲得費用が上がる | 集客経路ごとの獲得費用と、その後の継続率を分けて把握する |
| 初回価格の引き下げ | 初回の粗利で獲得費用を回収できず、2回目以降の来店に頼る | 初回価格を下げる前に、2回目への移行率を確かめる |
| 期待とのずれ | 「白くなる」と期待して来た人が変化を感じにくく、継続しない | 来店前の情報と初回の説明で、ケアできる範囲を正確に伝える |
| 契約の分かりにくさ | 解約時のトラブルや悪い口コミにつながる | 契約期間・解約条件・違約金を、契約前に書面で分かりやすく示す |
| 固定費 | 家賃・人件費の比率が高く、客数の小さな変動で赤字になる | 損益分岐となる月間の利用回数を把握し、席数と営業時間を合わせる |
事業者が市場を判断するときの確認点
- 数字の範囲と出典:市場規模の数字は、何を含み、誰がいつ調べたものかを確認する。出典が示されない数字は使わない。
- 自分の商圏の需要:全国の市場規模より、出店予定地の人口、通行量、近隣の同種サービス、歯科医院のホワイトニングの価格帯を自分で調べる。
- 提供価値の伝え方:表面の着色汚れのケアであることを前提に、広告・店頭・接客で伝える内容をそろえる。
- 継続の設計:月額やコースを設けるなら、解約条件を分かりやすくし、トラブルを未然に防ぐ。
- 医療側との関係:歯の色を変えたい人、症状がある人には歯科を案内できる体制を考えておく。
自分の商圏を調べる手順
全国の市場規模の代わりに、出店予定地や既存店の周辺について、次の順で情報を集めると判断材料になります。
- 人口と年齢構成:市区町村の統計で、商圏内の人口と20〜40代の割合を確認する。
- 人の流れ:商業施設であれば来館者数や営業時間、路面であれば平日と休日の通行の様子を自分の目で確かめる。
- 近隣の選択肢:同じ商圏にある歯科医院のホワイトニングの有無と価格帯、同種のサロンの数と価格帯を調べる。名前を比べるのではなく、利用者から見た選択肢の数を把握する。
- 検索の需要:地域名とホワイトニングを組み合わせた検索でどんな情報が出てくるか、地図検索で何件表示されるかを確認する。
- 必要な来店回数との照合:損益分岐となる月間の利用回数を計算し、上で調べた商圏の規模から見て現実的かを確かめる。
この作業は既存店の見直しにも使えます。開業時と比べて商圏の選択肢が増えていれば、価格ではなく、説明の分かりやすさや予約のしやすさなど、利用者が比べる点を見直すきっかけになります。
市場全体が伸びているかどうかよりも、その店舗が商圏の中でどの需要に応えるのかを具体的にできるかが、経営判断では重要です。
よくある質問
Q. セルフホワイトニングの市場規模は分かりますか?
A. 業界団体や行政による統計は、この記事の確認時点では見つかりませんでした。出回っている数字の多くは範囲や出典が不明確なため、事業計画では自分の商圏の調査を優先してください。
Q. 審美歯科市場の数字はサロンにも当てはまりますか?
A. 当てはまりません。矢野経済研究所の審美歯科市場の数字は歯科医院の自由診療収益をもとにしており、セルフホワイトニングは含まれていません。歯の見た目への関心の高まりを示す参考にとどめてください。
Q. 医療ホワイトニングが身近になるとサロンの需要は減りますか?
A. 一概には言えません。歯の色を変えたい人は医療側を選びやすくなる一方、表面の着色汚れのケアや、医療ホワイトニング後の着色ケアを目的とする人もいます。自店がどの目的に応えるのかを明確にすることが大切です。
Q. 業界の評判を下げないために何ができますか?
A. ケアできる範囲を正しく伝えること、契約前に期間・解約条件・違約金を書面で示すこと、無理な勧誘をしないことが基本です。国民生活センターの注意喚起の内容は、店舗の運営を見直すチェックリストとしても使えます。
参考資料
- 矢野経済研究所「審美・矯正歯科市場に関する調査を実施(2025年)」(2026年1月26日)
- 厚生労働省「新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表」(2025年4月18日回答)
- 国民生活センター「『セルフエステ』の契約トラブルに注意!-特に『セルフホワイトニング』に関する相談が増えています-」(2024年7月31日)
- 福岡県消費生活センター「消費生活トラブル注意報 第59号」(2023年4月)
- Haleonジャパン「歯のホワイトニングと知覚過敏に関する実態調査」(2026年6月10日)
執筆:ホワイトニング総研編集部(株式会社ピベルダ) 情報の確認日:2026年10月29日

